サヨナラも言わずに
とうとう沢田の頬に涙がこぼれた。
里穂さんは優しく沢田を抱きしめ、黙って頷いていた。
数分はそうしてたと思う。
「もういいか?」
「うん、ごめんね、弥生ちゃん。ところで……なんで黒瀬が?」
今さっきまで柔らかい、可愛い表情してたのに、いっきに険しい顔になった。
……そんなに俺がいることが、気に食わないか。
「あれ、あたしの息子なんだよ」
「え、弥生ちゃんの!?」
「どう?少しは好きになった?」
ちょっ、なに聞いてんだよ、クソババア!
「ごめん、弥生ちゃんの子供でも、黒瀬は大っ嫌い」
やっぱりそうだよな。
うん、わかってた。
わかってたけどな……
さすがにはっきり言われたら、傷つくんだが!?
それを見て、母さんは爆笑。
マジでいい加減にしろよ、このババア……!
「ついでに、篠宮旭って覚えてるか?」
「もちろん」