サヨナラも言わずに
「それ、アイツだ」
もう一回言ってやる。
マジで、いい加減にしろ!
でも、今口を開けば、母さんに対してじゃなくて、沢田に対しての言葉しか出てこないような気がして、なにも言えなかった。
「ねえ、黒瀬。一回死んで?」
「……は?」
沢田は真面目な顔、真面目なトーンで言った。
俺は固まってしまった。
沢田って、こんなこと言うような奴だったか……?
すると、端で母さんが声を殺して笑っているのが目に入った。
「もう、笑うなら思いっきり笑えよ」
俺がそう言った瞬間、母さんは遠慮なく笑った。
さっきより笑ってんぞ、このババア。
「あー、笑った。さて。嫌われ者の旭くんには退場してもらおうか」
母さんはそう言って、俺の背中を押して部屋から追い出そうとする。
「俺に拒否権は……!?」
「あるわけないだろ、そんなもん」
……だよな。
仕方ねぇ。
大人しく廊下で待っとくか。