ファインダー越しの瀬川くん

本能の赴くままにゆっくりとカメラを持ち上げていくと、ファインダーが目元に届く前に、スッと伸びてきた手にカメラをグッと押さえ込まれてしまった。


「これはちょっと……何か恥ずかしいから、撮らないで」


耳まで赤く染めて、瀬川が空いた方の手で顔を覆う。

その恥ずかしがっている顔も中々レアなのだが、残念な気持ちで素直にカメラを下ろすと、瀬川もホッとしたように手を引いた。


「それじゃあ僕、そろそろ行くね」


まだほんのりと赤みの残る頬を緩めて、瀬川が再びドアの方に歩き出す。

少しずつ遠くなる背中を、今度はファインダー越しに眺めてそっとシャッターを押した。

その音に驚いて振り返った瀬川が、カメラを構える山内を見て困ったように笑う。


「写真もいいけどさ、たまにはちゃんと山内さんの目で見てよ」


困ったように笑った瀬川がそう言い残して、ドアの向こうに消えていく。

廊下を駆ける軽やかな足音を聞きながら、瀬川の残していった言葉を頭の中で反芻して、構えていたカメラをゆっくりと下ろした。





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