ファインダー越しの瀬川くん
「そうか……ついに決心してくれたのか。いや、コンクールは苦手だって言うから今まで無理強いはしなかったが、山内の写真はついこの間までカメラに触った事がなかったというのが信じられないくらい、いいものばかりだったからな。正直、ずっと部室にだけ飾っておくのは惜しいと思っていたんだ」
「そんなことないです。全て、先輩方のご指導と、頂いたカメラの性能のおかげです。それに……これで最後ですから。思い出作りに一度だけ、出してみてもいいかなって」
そう決意させてくれたのは、ほかでもない瀬川で、彼と初めて面と向かって話したあの日がなければ、きっとこんな決意も湧かなかった。
「ありがとう、山内。部活を守れなかったこと、卒業していった彼らになんと詫びたらいいかと思っていたが……この話を聞いたら、きっと喜ぶよ」
目尻に深い皺を刻んで嬉しそうに笑う顧問にペコッと頭を下げて職員室を出ると、放課後の廊下を自分の教室へ向かって歩いていく。
ドアを開けて教室に入ると、誰もいない中でポツンと鞄が置かれた机に歩み寄る。
そっと鞄から取り出したカメラを胸の前に抱え、窓を思い切って全開にして、寒々しい風を浴びながらレンズをグランドへ向ける。