ファインダー越しの瀬川くん

靴音がやけに大きく聞こえる廊下を黙々と歩いて、教室のドアを開ける。

窓際の後ろから二つ目、一つだけポツンと鞄が置かれた席に向かうと、思わず深いため息がこぼれ落ちた。

覚悟はしていたはずなのに、思ったよりも落ち込んでいる自分に驚く。

鞄を開けて見れば、ジャージや教科書に紛れるようにして、愛用のカメラが収まっている。

元々写真が好きだったわけでも、趣味で写真をたしなんでいたわけでもない、入部を決めたのは、入学式のあとの部活紹介で見た先輩達の作品に心を惹かれたから。

それまで趣味らしい趣味もなかった山内にとって、それが初めてできた趣味にもなった。

その年、写真部に入部を決めた新入生は他に一人もいなかったが、それでもたった一人の新入部員を、先輩達は歓迎し大いに可愛がってくれた。

当然その当時カメラなど持っていなかった山内だが、部の備品ばかり使っていてはダメだと、先輩の一人から譲り受けたカメラを、それ以来相棒として長く愛用している。

自分だけのカメラというのはやはり違う。

先輩達もよく言っていた、長く使えば使うだけカメラが手に馴染んで、いい写真が撮れるようになるのだと。
< 2 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop