ファインダー越しの瀬川くん
本当ならば、許可なく写真を撮っていた事を謝るべきなのだろうが、真っ白になってしまった頭ではそんなことすら思いつかなかった。
「大丈夫、大丈夫だから!とりあえず、落ち着いて」
机や椅子に派手にぶつかりながら、窓に背中がくっつく程後退る山内に、瀬川が困ったように笑う。
「よし、じゃあ深呼吸してみよう。はい吸ってー吐く、もう一回吸ってー吐く」
瀬川の言葉に従って何度か深呼吸を繰り返すと、ようやく脳が正常に動き始めた。
「本当にごめんなさい。あの……勝手に写真、撮ったりして。い、今、全部消すから」
深く頭を下げて謝罪すると、そのままカメラを操作する。
全く悪意はなかったが、本人の許可なく写真を撮っていたのだから、瀬川にしてみれば盗撮と変わりない。
校内で人気者のスポーツマンを盗撮だなんて、そうでなくてもたった一人の写真部というだけで遠巻きに変わり者扱いされているというのに、そんな話が広がった時の事を考えると恐ろしい。