こんな嘘みたいな恋愛あるわけない!
side 櫻木伊澄
ああ、一瞬でいい。
何とかして、伊紅を止めないと。
そうじゃないと。
また、どこかへ行ってしまう。
本当は伊紅のことなんて、
少しもわからない。
怪我をしてたことだって、
今日思い出して確信しただけ。
あの日、動きがぎこちなかったのだって、
そんなに具合悪いんだ、ぐらいに思ってた。
僕の前から伊紅が消えた2年前の中学3年生の9月。
学校へ行くにも一人。
家で勉強をするのも、読書をするのも、
伊紅が『夏と麗ちゃんを見るんだ』って見ていたテレビを見るのも、一人。
まるで、体の半分がもぎ取られたような心地だった。