こんな嘘みたいな恋愛あるわけない!


先輩の思いが、私の胸を刺す。


…………でも。



「大事な人?」

気になる言葉が、一つ。


「………君が、いつも言ってたでしょ?
大事な、奴のこと」


「………伊澄のこと?」


「え?………俺に言わせたいの?
それ、わざと……?」



もしかして。



「や、あの、私………。

事件のことで、過去の記憶、一部だけ、ないんです」



「……………え?」


「わすれちゃったんです、全部。」



なんか、だんだん自分のペースを掴めてきた気がする。


「先輩。すみません。

私はそういうの、いいんです。


ほんとに心配しないで、進んでください。



さようなら。」


そう言って、お金を置いて、走り去る。


「伊紅ちゃん……っ」

もう、振り返らない。
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