冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~





[3]




 必死に、それぞれ理由やら言い訳を始めていたが、瑞季の耳には入ってこない。

 目も耳も鼻も、体の全てが目の前にいる人物に注目している。

 色白な肌と漆黒の髪をした女性へと。

 残念な事に、どうしても見たいと心が訴えるのに、瞳の色は目隠しのせいで分からない。

 なぜか、幼い頃から瑞季の夢の中に出てきた女性は、乳白色な肌と漆黒の髪をしていた。

 そう。まるで、彼女のようだった。

 自分がいつだって惹かれるのは健康的な日焼けをした肌の色をした女性だというのに。

 さらに不思議だったのは、瑞季も夢の中の顔は見たことがなかった。

 いつだって、夢の中では女性が振り返った瞬間に目が覚めてしまう。

(くそっ、顔が見たい)

 それは、心が発する声だった。

 瑞季は一歩を踏み出し、彼女の目から布を取り去る気でいたのだが、すぐに若者の一人が道を塞いだ。

「近づいちゃだめですよ」

「なぜだ?」

(なぜ邪魔をする?)

 自分で出そうと思ってもいないのに、瑞季の喉からは唸り声が漏れてきた。

 その音は、若者を後退りさせるのに、十分なほど威圧的だ。

「この女は……吸血鬼になりたてで、狂暴なんです」

 普段の瑞季だったら、後退りしたのに逃げずにいる若者を褒めていただろうが、今の言葉に鳩尾を殴られたような気分でそれどころではなかった。







       

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