冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~





 心の中が一気に冷たくなっていく。

 心のどこかで、悲鳴にも似た声が上がった。

 これほど繊細な存在が吸血鬼な訳がない。

 瑞季は若者を押し退けて近づいたが、ただ事実を知る結果になるだけだった。

 女性は後ろ手に鎖で繋がれているにもかかわらず、前に突進しようとしては床に叩きつけられるということを繰り返している。

 狂暴な唸り声が出てくる口元には、認めたくないが、吸血鬼を物語る牙が覗く。

 これ以上、この場所にいることが出来なかった。

「勝手なマネをした事については、狼呀に報告する。それまで大人しくしていろよ。ここにも近づくんじゃない」

 若者たちは反論しなかった。

 今が、人狼族のベータに異議を唱える時ではないと悟ったのだろう。

 小さな返事を聞きながら、彼らと彼女に背を向けると瑞季は部屋を後にした。

 廊下に出ると足早に自室へと向かい、入るなり扉を乱暴にしめた。

 彼女が吸血鬼だと認識している心とは違い、人狼の本能は彼女を今の状況から助けてやれと急き立てる。

 訳が分からない。

 彼女は憎むべき吸血鬼の一員。

 今すぐ処刑すべきなのだ。




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