冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
吸血鬼と人狼は、長い長い争いの末に両種族が話し合いの席に着く事によって、三つのルールが決められた。
一つ、許可なく人間を吸血鬼にしないこと。
二つ、人間の血を吸い付くして殺してはいけない。
三つ、吸血鬼が人間を襲わない限り人狼は吸血鬼に手を出してはならない。
そのルールが破られる事はなかった。
昨夜までは。
瑞季たち人狼は、古い吸血鬼の名簿はもちろん、新しく加わる吸血鬼の顔写真付の申請書まで持っている。
しかし、彼女の印象に見覚えがないどころか、この一年程の間に新たに生み出された吸血鬼はいない。
その代わり、気になる噂は耳にしている。
吸血鬼には、二つのグループが存在するという話だ。
一つは瑞季も面識のある横溝レンのように生き血を吸わず、パック詰めされた血を飲む吸血鬼。
もう一つは、人間を食料としか考えていなくて死ぬまで生き血を吸う吸血鬼。
そんな吸血鬼たちのメイカーである男は、生まれながらという純血の吸血鬼で、仲間を増やしてはコントロールの方法を教える事なく野放しにしているのだという。
男の名は知られておらず、人狼の間でもただの噂だろうと真剣に受け止めていなかった。
「噂は本当なのか……」
これは調べる必要がある。
というか、少しでも家から離れる口実が瑞季は欲しかった。
そうでもしなければ最悪の場合、隔離部屋に入って嫌悪する相手と夢の続きをしてしまいそうなほど、瑞季の中の獣は理性を失いつつある。
だが、ベータである自分が、そんな事をしてしまえば恥ずべき事で、二度とアルファに顔向け出来ない。