冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
最後の角を曲がると同時に、瑞季は喉から低く攻撃的な唸り声を上げた。
内なる獣はいつでも攻撃できるように身構えている。
その様子に、瑞季以上に狼呀が驚いた顔をしていた。
「お前……今、俺に唸ったのか?」
「すまない。今すぐその部屋から出てくれ、狼呀」
狼呀は驚いた顔で瑞季を見つめてくる。
仕方がない。
今日、この日まで仲間相手に唸った事など一度もないのだから。
「どうしたってんだ?」
唸り声を止められないし、飛び出した鉤爪を戻す事も出来ない。
狼呀があの部屋からーー彼女を隔離している部屋から出ない限り無理だ。
「狼呀……頼むから、その部屋から出てくれ」
内なる獣に支配され始めている声に、さすがの狼呀も何かを感じ取って一歩下がり、扉を閉めた。
中からは、温かい血のかよう生き物が居なくなった事により、苦痛を感じている彼女の絶叫が聞こえている。
「本気で、どうした。お前らしくないぞ?」
「悪い……話なら、あっちでしよう」
とにかく、瑞季は部屋から離れたかった。このまま部屋の前に居たら、刻一刻と彼女を守らなければという理解しがたい思いが強くなる。
吸血鬼を狩るのが楽しみで、憎んでもいるハンターの獣がこれでは、瑞季自身が彼女と寝たいと認めるのも時間の問題だ。