冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
「もう、落ち着いたか?」
隔離部屋から一番離れているキッチンまで行くと、心配そうに狼呀は口を開いた。
「ああ、もう大丈夫だよ」
「そうか。なら、一体さっきのは何だ? お前の目は人狼のモノに変わっていたし、あの女吸血鬼も」
「昨日の夜……若い連中が捕まえてきたんだよ」
「身元は調べたのか?」
「いいや。彼女は吸血鬼になりたてだし、今まで読んだ申請書にも見覚えがなかった」
瑞季は冷蔵庫を開けると、ビールの瓶を二本取り出し、一本を狼呀へと差し出した。
軽く礼を言って受け取った狼呀は爪を露にすると、意図も簡単に蓋を弾き飛ばす。
こうした一部分だけの変化を簡単に出来る所も、狼呀がアルファである証しでもある。
「それで? まだ不可思議なお前の行動についての説明がないぞ」
喉を鳴らしてビールを飲む合間に、何一つ見逃さない琥珀色の目を瑞季に向けた。
声には、少しばかりアルファの響きが込められている。
もう無視は出来ない。
「オレの中の獣が、おかしいんだ。彼女と……一発ヤリたがってる」
「吸血鬼と? そりゃ、おかしいな」
狼呀が聞き返すのも無理はない。
人狼と吸血鬼だなんて、猫とネズミの組み合わせほどありえない。