冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
「オレの獣は、彼女をいいベッドの相手になるだろうと錯覚している。だけど……人間である部分は、彼女をいいとは認めたくもないんだよ」
そう素直に話す瑞季を見つめる狼呀の目の奥には、理解の色が浮かんでいた。
彼だけが、瑞季の葛藤を理解してくれるだろう。
というのも、狼呀の自身、今は伴侶となっている彼女について、勘違いだったとはいえ悩んでいた時期があった。
最初、狼呀はマリアを吸血鬼に血を与える代わりに、快楽を得ようとする〈売血嬢〉だと思っていた。
〈売血嬢〉は、人狼たちの間で軽蔑として使われている呼び方で、吸血鬼予備軍ともいえる。
そんな彼女の誤解が解け、長いすれ違いはあったが、今では固い絆で結ばれているのだ。
でも、今回は勘違いでもなければ、誤解がとけることもない。
彼女は間違いなくすでに吸血鬼なのだから。
「オレは……どうしたらいい? 彼女は人間を襲って生き血を吸っていたんだ。殺すしかないが……オレには出来そうにない」
「変化直後の吸血鬼とは初めて会ったんだ。時間が経てば、お前の中の獣も落ち着いて考えられるさ」
飲み終えたビールの瓶をテーブルに置くと、寄り掛かっていた壁を背中で押すようにして離れて、瑞季の前まで来ると狼呀は肩を掴んだ。