冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
「それまでは、お前が面倒を見てやれ。あの部屋には、誰も近づかないように命じておく」
「……悪いな。でも、食事はどうすればいい? あのままじゃ、すぐに飢え死にしちまうよ」
彼女に与えるべきなのは血だけだと分かっていても、誰かに噛みつかせ訳にはいかない。
「彼女の身元や食事、どう扱えばいいか……その辺の事は、横溝に連絡して聞いてみよう。何か分かったら、すぐお前に連絡する」
「あの吸血鬼が、簡単に内情を明かすとは思えないな」
瑞季は思わず顔をしかめた。
レンは血液パックの血を飲むだけではなく、血液バンクという施設を運営している。多くの吸血鬼が出入りする場所だけに、何かを知っているかもしれないが、吸血鬼が天敵である人狼に秘密を打ち明ける訳がない。
「いいや、明かすさ。連絡するのはマリアだからな。あいつも邪険には出来ないだろ?」
“マリア”
そう名前を言った声は優しく、誰が見ても彼女を愛しく思っているのが分かる穏やかな顔をしていた。
マリアは狼呀の伴侶だが、かつてレンに血を提供していたという過去を持つ。
さらに、マリアはレンのお気に入りで、二人は今でも連絡を取り合っては狼呀を苛立たせてもいた。
「それなら、レンの口も軽くなるだろうな」
少しだけ見えてきた希望に、瑞季は心が少しだけ軽くなる思いだった。