冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
最近では、吸血鬼は恐怖の存在ではなく、退廃的でセクシーな最高の恋人と思われ、ある意味吸血鬼は“セックスシンボル”とも言える。
「まさか、映画や小説は……」
「そうだよ。僕たちの協力者たちが作ったんだ。人狼も、少しは宣伝してみたら? 怖いとかグロテスク、野蛮……なんて印象じゃなくさ」
「ほっとけ。それより、物語はいいとして、実際はどうなんだ?」
応接室の扉を開けてから、瑞季はレンへと向き直った。
「事実だよ。僕たちの間では〈ヴァンパイアセックス〉って言うんだ。中に入ると同時に牙を埋めると男は中の感触に溺れ、女は吸われる快感でオーガズムに達する。僕らの側の吸血鬼との間に痛みはない。前戯って大切だろ? 人間や人狼だって同じはず」
レンはうっすらと牙の先端を覗かせながら笑った。
「人狼族ベータの君が、吸血鬼とのセックスに興味がおありなのかな?」
応接室に入る直前、愉しそうに細めたレンに、瑞季はぎくりとした。
だが〈ヴァンパイアセックス〉に興味がある訳じゃない。
ただあの女吸血鬼とそうした交わりをした時、何があるのか知りたいだけーー。
そう自分に言い聞かせていたが、彼女が座位の体位で自分に抱きつき、首に牙を埋めると想像してしまい瑞季は頭を振った。
色々と感覚の鋭い吸血鬼の前で、妄想して欲情するのはよろしくない。
瑞季は咳払いをすると、自分も部屋に入り扉を閉めた。