冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
「さて……他の人狼たちに気付かれない冷蔵庫はあるかな?」
「ああ、オレの部屋に個人のがある」
「なら、君の冷蔵庫にこの血液パックを入れておくといい。何が好みか分からないから、様々な型の血を持ってきたよ。期限は二十日くらいかな。無くなったら、電話一本で僕が届けに来る」
一瞬、冷蔵庫に血液パックを入れるという考えに、ぞっとした。
そして、瑞季がそう思った事をレンは感じ取ったのか、深い海を思わせる青い瞳を冷たくする。
「香月。無理だと少しでも思うなら、例の吸血鬼は僕が連れて帰り、面倒を見る。別に責めている訳じゃないよ。他の種族の面倒は、そう見れるもんじゃないからね」
「ダメだ」
「申請書のない子は、僕たち吸血鬼の身勝手さの産物ってことなんだ。せめて、これから先は辛くないようにしてやりたい。香月……人狼の君が吸血鬼の彼女を傷つけないでいられるのか?」
彼女を思っての発言だという事は、瑞季にも分かっているが、内なる獣は侮辱と受け取った。
「ふざけた質問をするな、横溝。オレは彼女を傷つけない」
牙や鉤爪で傷つけるーーそう想像しただけでも、内なる獣は怒り始めた。
いまは自分のモノと見なしている彼女を、みすみす失うなんて事は出来ない。
声帯を通して発せられた言葉が、あまりにも唸り声に近くて、さすがのレンも
思い当たったようだ。
「まさか……例の吸血鬼は伴侶なのかい?」
人狼には伴侶をーー。
吸血鬼には花嫁をーー。
吸血鬼は人狼以上の長い歳月、花嫁を待ち続けている。
そのため、その点に関してだけは、お互いに祝福するのだ。
「それなら、僕に口出しする権利はなさそうだね」
否定しようとは思わなかった。そういう事にしておけば、これ以上踏み込んでは来ないだろう。
瑞季は少しだけ困惑した。
いまの言い訳じみた考えは、いったい誰に向けたものなのかと。