冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
あまりにも不可解な自分の心と行動に戸惑い、瑞季は咳ばらいをすると話題を変える事にした。
「それより教えてくれ。どうやって血液パックの血を飲ませればいい」
瑞季の想像では、血液パックに牙を立てて穴を開け、空いた穴に吸い付くというものだった。
牙を使うことが重要だと考えていたのだがーー。
「温かいのが好みな子なら、マグカップに移してから電子レンジで温めるか、湯煎……冷たいのが好みな子なら、ワイングラスに注いで渡せばいい」
あまりにも予想外だった。
それでは、まるで人間がホットミルクを作るか、ワインを飲むようではないか。
そう思えば、ただの食事だと思えてくるのだから不思議なものだ。
「分かった。ありがとう……協力に感謝する」
「少しでも彼女が落ち着いたら、会わせてもらえるかな? 書類の作成もあるし、メイカーについて聞く必要がある」
「その時には連絡するよ」
瑞季は片手を差し出した。
すぐに察したレンはテーブルに保冷バックを置くと、瑞季の手を握り返す。
自分より少しひんやりとした体温に、内なる獣がたじろいだ。
それでも魂の奥に留まっている様子から、レンの事を敵ではないと認識しているのだろう。
「それじゃあ、僕は失礼するよ。ささいなことでも、気になることがあれば、時間なんて関係なく連絡をしてくれて構わないからね」
そう言うと、玄関まで見送ろうとする瑞季を制して、廊下へと消えていった。
部屋に残されたのは、テーブルの上にある保冷バック。
瑞季は少し躊躇ってから、保冷バックを手に彼女の部屋へと足を向けた。