冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
第3章 目覚め






 怖いーー。

 彼女が最初に感じたのは、そんな感情だった。

 視界を奪われている分、匂いや音、空気に敏感になり、より恐怖が増幅されていく。

「目が覚めたか?」

 突然の低い声に、びくりと肩を揺らした。

 別に声を張った訳でも、怒鳴り散らしてきた訳でもない。

 なのに、その声だけで切り付けられたような冷たさと痛みを覚える。こんなに感情のわからない声を聞いたことがない。

 とっさに答えられずにいると、靴音が室内に響き、部屋の中を満たしはじめた熱気が押し寄せてきた。

 声の冷たさとは真逆な熱に、身の危険を覚えた。

 もちろん、人を縛って目隠しをする相手だ。危険じゃないはずがない。

 きっと体も大きくて、顔だって恐ろしいに決まってーー。

 男の顔を想像していると匂いが強くなり、耳元を何かが掠めていく。

 男らしくて、清潔で、それでいて甘い。

 あまりにも不思議な香りだった。

 今度は逆方向に耳元を掠めていき、匂いと男の熱が離れていく。

 不思議と寂しさを感じた。







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