冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
突然、恐怖がはい上がってくる。
『一体、私は誰?』
自分に対する問いかけは、心には空虚に響く。
「私……の……名前は……」
誰かに名前を呼ばれている場面を思い出そうと、頭の中にある記憶のロッカーへと意識を集中して向かう。
自分だけが知るその場所で、次々と小さな記憶の棚を開けるイメージをするが、全てぼやけていたり、空っぽだったりする。
名前どころか、自分だと思える記憶すらないことに気がついた。
「おい。大丈夫か?」
偉そうな呼びかけに黙っててと言いたかったが、声をかけられると同時に古くて音声の悪いラジオから聞いているような音が聞こえてきた。
『……りさ。君の名前は……』
ノイズが入り混じって聞き取りづらいが、徐々に理解できるようになってくる。