冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~
「私の名前は……」
その声は愛を囁くみたいに甘いが、奥に潜む何かは不快にも思う。心のどこかでは、聞きたくないと感じていた。
『君の名前は……ありさだよ』
もっと記憶の欠片を少しでも集めたくて集中するが、拒絶反応が起きた。見よう見ようとすればするほど、まるでナイフを突き刺されているみたいな痛みが頭を襲う。
あまりにも強い反応に耐えきれず、彼女の中にある防衛本能が働きはじめた。
意識が遠退いていき、最後には何も考えられない。
ただ、彼女が意識を失う瞬間、一つだけ欠片を見つけた。
『君の名前は……から、ありさだよ』
頭の中で再生される映像の中には、一人の男が出てくるが、よく顔が見えない。なによりも、今は直視できない。
記憶の中にあった光景は、滴るほどの血で真っ赤に染まっていたのだ。