冷たいキスと獣の唸り~時間を巻き戻せたら~





  制限速度ギリギリでバイクを走らせ辿り着いたのは、芝が一面に生える庭とバラ園を持つ洋館。
 ここに来るまで、木々に囲まれた私道を走ってきた。唯一、のびのびと過ごせるこの場所を見つけたのは、ほんの数年前だ。
 最初、故郷を離れなくてはならないと聞いた時には、不満と怒りで瑞季は聖呀に八つ当たりをしていた。
 だが、この場所を見せられた瞬間、まあ悪くないかと考え方が変わって、聖呀に呆れられたものだ。
 今では仲間の誰よりも、瑞季はこの場所を気に入っている。
 バイクを玄関前に停め、施錠されてない玄関を開けると、静寂が瑞季を出迎えた。
 今夜は満月って訳じゃない。

「どこ行ったんだ?」

 ぶつぶつと呟きながら歩いていると、食堂に繋がる扉に一枚のメモが貼られているのに気がついた。

『今夜は全員で、クラブ〈ムーンライト〉に行っています』

 読み終えると、そういえばそうだったと、何日か前に言われていたことを思い出した。
 本当は、仲間の一人に今日の見回り地域を聞こうと思っていたのだが、いないのなら仕方がない。
 自分で内容を確認しようと、会議室として使用している部屋へ行こうとすると、奥の部屋から物音がした。
 誰もいないはずの家での音に、急激に警戒心が高まる。
 足音を立てないように移動し、相手の不意を突くために、瑞季は一気に扉を開いた。

「うわっ!」

 急所を狙うつもりだったが、中から聞こえてきた声に聞き覚えがあって、彼は拳をといた。

「お前たち、何をしている? クラブに行っているはずだろ」

 部屋にいた男たちは、一斉に動いて横一列に並んだ。まるで何かを隠すように。

「あの、瑞季さん。オレたちも、これから行こうと思って」
「そ、そうなんですよ。おれたち、さっき仕事が終わったばかりで」

 緊張と嘘の匂いが瑞季の鼻へと届く。
 普段、この若者たちの嘘は多目に見ていたが、今回の嘘には無視出来ないモノを感じ取った。

「お前たち、俺になにか隠していないか?」

 瑞季はそれが何かを探るために体を動かした。
 すると、面白いことに若者たちも瑞季の動く方へと体を動かしたのだ。口にしなくとも、体は正直だと彼は思った。
 どうやら、嘘をつかなければならない理由は、ずらりと並んだ若者たちの後ろにあるらしい。
 瑞季はフェイントをかけて、後ろを覗きこみ━━。

「おい! お前たちは何をしたか分かってるのか」

 若者たちを怒鳴りつけた。
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