MAOU LIFE
~MAOU LIFE 11日目~

ジリリリリリリ!

けたたましく目覚まし時計が朝を告げる。それを大きな手が優しくチンッと止める。

天帝「ん…もう朝か…」ムクッ…

時間はAM5:00、アーリアの朝は早い。のっそりとベッドから起き出すと、寝間着を脱ぎ、トレーナーに着替える。そして眠そうな目をこすりながら洗面台に向かい、歯を磨いてヒゲを剃り、顔を洗う。

天帝「ポチの散歩に行くか」

アーリアはマナー袋とスコップを持って、玄関で運動靴を履き、赤いリードを手に取る。

天帝「ポチ、おはよう、散歩に行くぞ?」
柴犬「ワンワン!」

ポチとは天帝一家に飼われているオスの柴犬(基本茶色で白の麻呂眉)で、見た目は普通の中型犬だが、実はフェンリル狼と互角の実力を持つ神犬である。ポチはそれで空が飛べるのではないかと思わせる程、尻尾をブンブンと振り、主人との散歩を喜ぶ。

天帝「よし、ポチ。今日は天国の門まで行こうか?」

アーリアはポチのリードを引いて、散歩に出る。自身とポチの健康の為と、時間節約の為に軽くジョギングをする。20分程走ると、何やら小じんまりした駅が見えてきた。「天国の門」と書かれた看板が掛かっている。

天帝「うーむ…天界へ昇って来る者達が疲れなくて良い様に電車にしたは良いが…いまいちパッとしないな…」

天界への入り口である天国の門(人間界の生物専用)は元祖天界ガッカリ3大名所として有名であり、そのイメージを払拭する為に駅化してみたが、やはり毛が生えた程度のイメージアップしか出来なかった。

天帝「今度ゼクスに意見を聞いてみるか…」

最近は魔界の観光地やリゾート施設が強化されており、罪人達が魂と引き換えに永久契約をしてしまい、地獄で罪を償って天界に昇ってくる者が大幅に減っているのだ。

天帝「さて、帰って仕事をせねばな」

アーリアは来た道を引き返し、自宅(一戸建て)に戻る。家に戻った彼はそのまま洗濯と風呂掃除と家族(自分・妻・娘)の朝食を作る。そして朝食の支度が済むと、家族を起こしにいく。まずは妻の部屋に行き、クルスを起こす。

天帝「クルス、ご飯が出来たよ?」
天帝妃「…今日は太陽の日でしょ?もう少し時間考えなさいよ、本当気が付かないわね」イライラ…
天帝「もう10時だけど…」
天帝妃「はぁ…あなた、私は毎日仕事と家事とエステルちゃんの世話で忙しいんだから、休みの日位は昼過ぎまで寝ていたいのよ」
天帝「…すまない」

暗い顔をしながら次は娘、エステルを起こしにいくが、もうお年頃の為か、勝手に部屋に入られた事にキレて罵声を浴びせられる。

天帝「はぁ…仕方ない、私も休ませて貰うか…」

アーリアは朝食を冷蔵庫に入れ、部屋に戻り寝直す…が、1時間も経たないうちに、自室のドアがけたたましく叩かれた。驚いて起き上がると、不機嫌そうなクルスとエステルが立っていた。

天帝妃「なぜ家事をサボってるのかしら?私達起きてあげたんだから朝ご飯温めなさいよ」

「温める位自分でしてくれ」と思いながら、アーリアはキッチンに向かい、食事を温めなおすが、『不味い』『食べたい物じゃない』など2人から散々文句を言われた。

天帝「昔のクルスに戻ってほしい…」ボソッ…

2人に聞こえないようにボソリと呟き、あとは淡々と家事をこなしていった。家事が終わるとクルスへのマッサージや、エステルからの使いっぱしりなど散々こき使われて、自分の時間が持てたのは夜22時だった。

柴犬「くぅ~ん…」スリスリ…
天帝「ポチ…お前だけだ、この家庭で私に安らぎを授けてくれるのは…」ウルッ…

アーリアは庭でポチに話を聞いて貰っていた。

天帝「結婚して娘が生まれるまではお互いを尊重しあう、いい関係だったのに…娘が生まれてから彼女は豹変してしまった…妻から母になるというのはよく聞く話だが…」

クルスは明らかにそれとは違った。最初に育児放棄、続けて家事も放棄、仕事も比較的楽な件しかしない、娘がある程度成長して可愛い盛りの頃に手の平を返して娘の世話を焼き始める。そして娘は母親の態度を見て、アーリアへの態度はクルスと同じ様にしていいと刷り込まされ、彼を雑に扱うようになった。

天帝「それでもいつかはもとの妻に戻ってくれると信じて甘やかしてしまったのが、そもそもの間違えだったな…」
柴犬「クゥン…」ペロペロ…

それから彼は仕事がある無い関係なく、2人の奴隷のようにこき使われる様になった。

天帝「給料も全て取り上げられ、私には月2万の小遣いだけ…勿論その中から2人にせがまれたらご馳走もしなくてはならないし…はぁ…」

もし娘が居らずにこの状況なら、迷わず離婚しただろうが、いまはまだ未成年の娘がいる。あと何千年この状況に耐えなければならないのだろう…とアーリアは涙を滲ませた。ポチはアーリアの涙を舐めとり、彼の携帯が入っているポケットを前足でポンポンと軽く叩く。

天帝「ポチ…ありがとう。そうだな…」

プルル…プルル…ガチャッ

天帝「夜分にすまない。奥さんと娘さんには申し訳ないんだが…今からお邪魔しても良いだろうか?……すまないな」

こうして彼は視界を滲ませながらゼクスの部屋に向かって行った。

~MAOU LIFE 11日目~ 終
< 15 / 52 >

この作品をシェア

pagetop