MAOU LIFE
~MAOU LIFE 21日目~

魔王「どこだ…チャックはどこだ…」
柴犬「ワフワフ」キャッキャッ…
天帝「ゼクス…ポチは正真正銘本物の犬だぞ?」
魔王「いや、こいつの中には小型のオッサンが必ず入っているはずだ!」

アーリアの家の庭でゼクスはポチの背中や腹をワシャワシャと撫でて、必死にチャックを探している。

天帝「ポチが二足歩行で歩いて、酒を飲みながら煙草を吸っていたのを見たと聞いたが、私はまだ一度も見た事が無いぞ?夢じゃないのか?」
魔王「いや、あれは夢では無い。我は確かにこの目で見た」
天帝「まぁとりあえず早く釣りに行かないか?妻の視線が痛いんだが…」

家の中から窓越しにアーリアを笑顔で眺めるクルスの姿があった。表情は優しい聖女のような笑顔だが、心の中では修羅の様な顔をしているのをアーリアは感じていた。

魔王「仕方ない…今は諦めるか…」

ゼクスはポチのチャック探しを諦めると、竿とクーラーボックスを持ち、翼を広げた。アーリアはクルスの視線にオドオドしながら翼を広げ、ポチの頭を撫でてから空に飛び立った。

魔王「帰ってきたらもう一度探すからな?」
柴犬「?」
天王女「おじ様ー!お待ち下さい!」タッタッタッ…
魔王「ん?どうしたエステル」
天王女「あのっ!これ、良ければ海で召し上がって下さい!」
魔王「あぁ、すまないな。小腹が空いたら食わせてもらう」

エステルが出発前のゼクスを引き止め、手作り巨大プリンを手渡した。ゼクスはエステルの頭を撫でて飛び立った。エステルは嬉しそうな顔をして家の中に戻っていった。

柴犬『……誰も見とらんな?』キョロキョロ…

ポチは辺りを見渡して、誰もいない事を確認した。するとすくっと立ち上がり、がに股でテクテクと犬小屋まで移動し、犬小屋内に上半身を入れて煙草とワンカップを取り出し、壁にもたれかかって座る。

柴犬『やれやれ…チャックなんか探しても無いっちゅーねん』シュポッ…

ポチは器用にライターで煙草に火をつけると、これまた器用に煙草を爪で挟みこみ、煙を深く吸って吐き出した。

柴犬『ワイ一応ホンマもんの犬やで?確かに中身はオッサンかもしれへんけど(笑)』

ポチはワンカップのフタを空け、ドッグフードを肴にしてちびちびと酒を飲み始めた。

柴犬『しっかしホンマ、クルスの糞アマはいつもご主人をイジメくさりやがって!いつか咬み殺したろうかな』

ポチはアーリアをいつも心配しており、それと同時にクルスとエステルを激しく憎んでいた。

柴犬『大体エステルもホンマはご主人の娘やないのにな…まぁアレは元々あの腐れビッチがご主人に娘や思わせてるんが悪いけど、それにしたってワガママ放題好き放題やしなー。ゼクス様の前でだけイイ子ぶりっ子しおってからに!ホンマ腹立つわー!』

ポチは眉間の麻呂眉にシワを寄せ、グッと酒を飲み干した。

柴犬『ゼクス様もゼクス様やで。エステルの秘密は知らんにしても、や!ご主人の事イジメてる1人やって知ってんのに何でプリン受け取って頭撫でとんねん!そんなん自分で買ったらよろしいやん!…ってせやった、ゼクス様ん家は極貧やったな…単純に貰えるもんもろてるだけか…ワイがプリン作れたらあんな奴のプリンやなくて、ワイのプリン食べさせてやるのにな』

実際ポチが料理したら毛が混入して不快だと思うが、ポチはその事に気づいていない。それからしばらくポチはクルスとエステルのグチを吐き出しながら煙をくゆらせる。日も暮れ、一箱分の煙草を吸い終わろうかとした時、ポチの鼻はゼクスとアーリアの匂いを察知した。

柴犬『アカン、帰ってきた!とりあえず吸い殻は瓶の中に入れて、瓶は庭に埋めて、ブレスケア食って…』

ポチは証拠隠滅を図る。ブレスケアを食べた後、服用消臭剤を自分にかけて、消臭セットを犬小屋の中に隠し、四つ足歩行に戻る。

天帝「ただいま、ポチ。今日は人間界の海で釣りをしたんだが、よく釣れてな。ほら、お土産だぞ」
柴犬「ワンワン!」ブンブン…

釣りから帰ってきたアーリアはクーラーボックスから魚を5匹ほど取り出し、ポチの餌入れに入れてやる。ポチは嬉しそうに尻尾を振り、魚を食べ始めた。

魔王「なんか…煙草臭いな…」クンクン…
柴犬「ギクッ…」プルプル…
天帝「そうか?何もにおわないが…」
魔王「酒のにおいもするぞ?」チラッ…
柴犬「………」ビクビク…

ポチは証拠隠滅は完璧だったはず…などと思いながらビクついた目でゼクスをちら見すると、ゼクスはニヤニヤしながらポチを眺めている。

柴犬『アカン…バレてる…何でや!何でバレたんや!?』
魔王「なんてな…いつもの犬臭さしかない」
天帝「まったくゼクスは…」ハハハ…
柴犬『嘘かーい!!!!ホンマ焦ったわー!!寿命が1000年縮んだわ!てか犬臭いって、やかましぃわ!』

ポチはホッとしながらゼクスを睨む。ゼクスはポチの眼圧を気にせずニヤニヤしながら、ポチの背中と腹をワシャワシャする。

柴犬『アカンて!そんなんワシャワシャされたら感じてまうやろ!アカンてぇー!』

ゼクスはポチ的に好きなところをピンポイントで撫でてくる為、すぐに気持ち良くなり尻尾を振り乱した。

魔王「フム…今日もチャックが見あたらんかったな…もしかしてマジックテープ式なのか…?次来た時は引っ張ってみるか」
天帝「ん?もう帰るのか…?」
魔王「あぁ、アーシュが待っているんでな」
天帝「そうか…ウチで夕食を食べていって欲しかったんだがなぁ…」

ゼクスがアーリア宅で食事となると、クルスは外面を気にして自分への接し方が良くなるのとエステルも上機嫌になるのとで、アーリアとしては是非一緒に食事をして欲しかったが、ゼクスにも家庭がある。アーリアは残念そうにゼクスを見送った。

天帝「ポチ…お前がゼクスの言う通り、もし中にオッサンが入っていたのなら、私は飲み仲間が出来て本当に嬉しいんだがなぁ…」
柴犬『こ、これはあれか?フリか?…ご主人、今まで隠してきたけど実はワイな…』スッ…

ポチは立ち上がり、犬小屋の中からワンカップを取り出し、アーリアに差し出した。それを見てアーリアが何事もなかったかのように呟いた。

天帝「こんなところに私のワンカップが何故…クルスかエステルちゃんの仕業かな?とにかくポチ、見つけてくれてありがとう」
柴犬『…ご主人、せやから周りから馬鹿にされるんやで?もっと空気読も?』

~MAOU LIFE 21日目~ 終
< 30 / 52 >

この作品をシェア

pagetop