MAOU LIFE
~MAOU LIFE 29日目~

死神「魔王様、舞踏会の時間です」
魔王「あー…これから退屈な時間が始まるのか…」
死神「魔王様、これも政の一つですよ」
魔王「結局腹の探り合いの場であろう?」
死神「魔王様を失脚させようという輩もいるとの噂もありますし、それが本当ならあぶり出してみるのも良いかもしれません」
魔王「挑戦ならいつでも受けると公言しておるし、その噂が真実ならば勝手に挑戦してくるだろ」

デスはハァと溜め息をついた。

死神「武力で魔王様に適う者がいないから、政略的に魔王様を潰しに掛かるんでしょ?」
魔王「政略的ねぇ…よし!その辺はデス、お前に任せた」キリッ…
死神「何言ってんですか!」
魔王「腹の探り合いとか政略的とか、頭使うのは面倒だしな」
魔王妃「昔から変わりませんね、ゼクス様は」ニコニコ…
死神「確かに魔王様は昔から何一つ変わっていませんが、時代は変わるものです。武力の時代はいずれ終わりを迎え、これからは知力の時代がやってきます」
魔王「うーむ…それも一理ある。しかし、我は知力の時代など絶対に認めん!」
死神「いや、認めんって…一体何をする気ですか?」
魔王「まぁ見ておれ。あ、そうそう、お前達は先に舞踏会に行き、我の代わりに挨拶を済ませておけ。我は少々遅れる」

ゼクスはそう言うと机に向かった。アーシュはふてくされるシャルルをベビーカーに乗せ、デスと共に会場の大ホールに移動した。

魔王「…これで良し」ニヤリ…

既に始まっている舞踏会にやや遅れてやってきたゼクスは玉座に座る。すると魔界の貴族や豪族がこぞってゼクスの元に挨拶をしに来た。中にはまだ幼いシャルルを将来的に息子の嫁に欲しいと言う者や、魔王の権力目当てで傘下に入りたがる者もいた。ゼクスはうんざりした顔で適当にそれらをあしらい、シャルルを膝の上に乗せてあやしはじめた。

魔王妃「ゼクス様、せっかくの舞踏会ですし、私達も踊りませんか?」
魔王「むぅ…我は盆踊りくらいしか踊れんぞ」
魔王妃「知ってますよ?ですから、私が手取り足取り教えて差し上げます」ニコニコ…
魔王女「ほぷぅ!」プンスコ…

アーシュがゼクスをダンスに誘うとシャルルが何かを察知し、ガラガラを振り回し抗議した。
ゼクスはシャルルの頭を撫でて、また今度と誘いを断った。断られたアーシュは目に見えてしょんぼりしていた。

魔王「さて、そろそろ頃合いか…」

舞踏会も落ち着き始め、皆食事と会話を楽しんでいる様子を見て、ゼクスは玉座から立ち上がる。ずっと座っていたゼクスが突然立ち上がったので、会場の全員はそれに注目した。

魔王「本日は皆に重大な知らせがある。以前、魔王の座が欲しくば、いつでも挑戦して来いと公言したのを覚えているな?」

その場にいた者全員が頷く。デスは嫌な予感がして不安そうな顔でゼクスを眺める。

魔王「それでだ、以前そう公言したが、考えてみれば正式に書面化していなかった。よって、書面化したので読み上げる。『次期魔王の座を求む者は現魔王ゼクスに挑戦をし、武力にて現魔王を討ち倒す事。もしくは現魔王ゼクスの娘
、第一王女シャルルと正式に婚約、婚礼の儀を挙げる事。尚、王女の婿(次期魔王)候補についてはシャルルが成人になり、自らの意志で相手を決め、それを現魔王ゼクスと現魔王妃アーシュが認めた者のみとする。上記以外での魔王の座の譲渡は認めず…』」
死神「…認めんってこういう事ですか。まぁ何となく予想はしていましたが、本当に武力的弱肉強食主義ですねぇ、あなたは」ボソッ…

完全なワンマン宣言に会場はどよめきを見せ、中には先が無くなったと表情に出す者もチラホラ見えた。

魔王「『…尚、これに異議がある者は魔界そのものに異議があると見なし、御家取り潰し、更に魔界追放を命ずる。従わぬ場合は現魔王ゼクスが直々に武力行使する事とする』以上だ」

続きの文章でどよめきは収まり、一部の者は青い顔をして俯いた。

魔王「さて、報告も済んだので、皆引き続き舞踏会を楽しんでくれ」

その一言で沈黙は終わり、また再び優美な曲が流れ始め、客は会話を始めた。

死神「魔王様、書面化する事でこれからも武力以外での挑戦を認めない事にした訳ですね。しかも魔王女様の婚約相手も魔王様の許可付きとは…いやはや魔王様らしいというか…完全にワンマン経営者ですね」
魔王「太古の昔から魔王と神は絶対的な力を持つ者と相場が決まっておる。それにどこの馬の骨とも分からん奴にシャルルはやれん」
死神「太古の昔って2代前の話ですよね…確かに億単位の前の話ですけど…」
魔王「さて、そろそろシャルルが寝る時間だ。我はシャルルを寝かしつける為、一足先に帰る。アーシュ、デス、後の事は頼んだぞ」

ゼクスは眠たそうなシャルルを抱っこしながら自宅へ帰っていった。するとアーシュも一度裏に引っ込み、再び会場に戻ってきた。手には半透明で大きな容器を持っている。

死神「魔王妃様、それ…」
魔王妃「はい、お料理勿体ないので後でタッパーに詰めて持って帰ろうと思いまして」ニコニコ…
死神「せめて舞踏会終わってからそれ持ってきてくれます?」

~MAOU LIFE 29日目~ 終
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