MAOU LIFE
~MAOU LIFE 41日目~

魔王妃「もうっ!ゼクス様の事なんて知りません!」プンスコ…
魔王「さっきから何に怒っているのか良く分からんのだが」
魔王妃「…っ、もう!ゼクス様のバカぁ!」ウワーン…

バタンッと強く玄関の扉を閉め、アーシュは泣きながら自宅を勢いよく飛び出した。どうやら何か揉めていたようだ。ゼクスが扉を開けるとアーシュは既に遠くの方に飛んで行ってしまっていた。

魔王「…我れが一体何をしたというのだ?」
魔王女「ほぷぅ」ニヤニヤ…
魔王「…ハァ。もう暗くなりかけておるし、遠くに行かれる前に探しに行くか。携帯も持って行っておらんようだし…」チラッ…
魔王女「ほぷぅ!」イヤイヤ…

ゼクスは探しに行くというワードで急にだだをこね嫌がるシャルルをあやしつつ抱っこベルトで固定し、翼を広げて、既に見えなくなったアーシュの後を追った。

魔王妃「ぐすん…ゼクス様なんて…」ヒックヒック…
夢魔「王妃様、どうか涙をお拭き下さい。さぁ、温かい紅茶でも飲んで、落ち着いて下さいまし」ニコッ…
魔王妃「リリム殿…こんな遅くにすみません…」グスッ…ズビー…

泣いている間にアーシュは街外れの更に先、畑や草原が広がる田舎町まで飛んで行っており、久しぶりの長距離全力飛行に疲れて降り立った。たまたま近くにあったバス停の椅子で羽休めをしていたところ、買い物帰りのリリムに発見され、すぐ近くにある彼女の家(平屋一戸建て)に連れて来られていた。

夢魔「王妃様、坊ちゃまと何かあったのですか?私でよろしければ、お話聞きますよ?」
魔王妃「リリム殿…すみません…実は…」

喧嘩(?)の原因はシャルルがゼクスにばかり懐いて、自分がシャルルに接しようとすると途端にふてくされるか泣き喚き、結局それをゼクスがあやし、余計娘に構う事が出来なくなるのが激しく羨ましいといった、単なる母親のヤキモチだった。

魔王妃「ゼクス様ばかりズルいです!私だってシャルルたんと遊びたいし、シャルルたんとお昼寝したいし、シャルルたんとお風呂入ったりしたいのに!」グスグス…
夢魔「王妃様、全てがそうとは言いませんが、女の子ってそういうものですよ。王妃様だって、小さな頃はお父様にべったりだった頃があるのでは?ちなみに私はそうでしたよ?」フフッ…
魔王妃「リリム殿が…?」
夢魔「えぇ、私もまだ子供の頃は父にばかり甘えて…母が言うには、大きくなったらお父様と結婚する!って言ってたみたいです」ニコッ…
魔王妃「あっ…でもリリム殿と同じように私もお父様にそう言っていた時があったと、昔お母様から聞いた事があるような…」
夢魔「女の子は男の子よりも成長が早いですからね。心は特に」フフッ…
魔王妃「そっか…シャルルたんもあの時の私と同じ気持ちで…」
夢魔「お嬢様も心はもう立派なレディですからね。今は特に坊ちゃまに構って欲しいのですよ」ニコニコ…
魔王妃「ゼクス様に…ハッ!私ゼクス様に酷い事言っちゃった!すぐ帰ってゼクス様に謝らなきゃ!」

はっとしてアーシュが立ち上がるとリリムがそれを止めた。

夢魔「王妃様、今日はもう遅いですから、ここにお泊まり下さい。この辺は危険な魔獣もうろつきますので…」
魔王妃「でも…」
夢魔「坊ちゃまには私から連絡しておきますから、ご安心下さい」ニッコリ…

そう言ってリリムが携帯でゼクスに電話をかける。しかし発信音がずっと続くだけで繋がらない。

夢魔「繋がりませんね…」
魔王妃「怒って寝てるのかもしれません…」シュン…
夢魔「流石にそれは無いと思いますよ?急に飛び出した王妃様を探しに出ていて気づいていないだけかと」
魔王妃「えっ…でも私…」グスッ…
夢魔「大丈夫、坊ちゃまは昔からお優しい方ですから」ニコッ…

♪~♪~♪~
リリムの携帯に着信を知らせるメロディーが流れる。リリムが電話をとるとゼクスからだった。受信口からゼクスの声が微かに漏れて、アーシュにも聞こえた。ずっとアーシュを探して飛び回っていたのか、ぜぇぜぇと荒い呼吸音が混じって聞こえる。

魔王妃「ゼクス様…」ジワッ…
夢魔「坊ちゃま、王妃様の事が心配でずっと探し回っていたと仰っておりましたよ?あと、もうここの近くまで来ているから、すぐ迎えに来るそうです」ニッコリ…

ゼクスの優しさにアーシュは涙をこぼし、次第に声をあげて泣き出した。それから少ししてリリムの家のドアが叩かれ、リリムが扉を開けるとそこには汗だくのゼクスが既に寝ているシャルルを抱っこして立っていた。ゼクスはリリムの家に上がり、アーシュのいる居間まで行き、アーシュの前に立った。ゼクスの眉間にはシワが入っており、怒っているように見えた。アーシュは思わず俯く。

魔王妃「ひっく…ぐすっ…ゼクス…様…」ビクッ…

ゼクスはゆっくりとアーシュの前まで歩き、屈み込んで、アーシュの頭にポンっと手を置いた。アーシュが顔を恐る恐るあげると、いつもの優しい笑顔のゼクスがいた。

魔王「さ、帰るぞ?」
魔王妃「…う…ゼクス…様ぁ…ごめんなさい!ごめんなさい…ごめんなさい!」ウワーン…
魔王「気にするな。お前が無事で良かった」

ゼクスはアーシュの頭を撫でながらリリムに礼を言い、泣き続けるアーシュをおぶり、再び羽ばたいて帰っていった。

~MAOU LIFE 41日目~ 終
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