@ラビリンス
―――沈黙が流れる。
痺れを切らしたかのように彼が口を開いた。
「ごめんごめん、あの子の僕の事好きだってしつこくってさ。丁度いいところに来た君を使っちゃったんだ。」
軽い口調でゴメンのポーズをとりながら謝る彼。
『いや…彼女泣いてましたけど、大丈夫なんですか…?』
理由は知らないけれどあんなに泣くまでこの人を好きなのは伝わったし、それにただの知り合いという関係には見えなかった。
「ただ前にちょっとキスしただけなのにね。本気で好きだーなんて迫られちゃってさ。ホント、困っちゃうよね。」
『え?』
やっと落ち着いた脳がぴたっと動きを止めた。
「一回だけね、遊び心だよ。ただ僕がしたかったからしただけ。」
(僕がしたかったから…キスをした?)
「怖いね〜、ああゆう女の子って。キスしただけですぐ人をなれるんだもん。」
『あの。』
「ん?なーに?」
怒りと嫌悪がフツフツと湧いてくる。
『好きでもないのにあの人にキスをしたんですか?』
静まりかえった部屋に私の声だけが聞こえる。
「そうだよ?」
『キスをしただけで好きになる方がおかしい?』
「………何が言いたいの?」
悪びれた様子となく彼は首を傾げた。
『あなたって人の気持ちも考えられないクズでど阿呆でお気楽なダメ人間なんですね。』