語り屋の 語りたる 語り物
音が戻り、時間が進み、全ての景色が元どおりに再生された。
イーザは、上のローブを脱ぎ捨て、
川に飛び込んだ。
水が刺すように冷たい。
思わず顔をしかめた。
川の真ん中にいてくれたお陰か、
それほど流れが早くなかったので、
幾ばくもなくして、彼女をみつけることができた。
水で、もつれる手足を制御しながら、
イーザは泳ぎ続け、追いつき、
彼女の肢体をしっかりと抱き、
水から引き揚げた。
息を切らしながら顔を覗き込んでみたが
反応はなく、ぐったりとしていた。
冷たくなった身体を抱きかかえたまま、河川の岸まで戻り、
静かに寝かせてから、水を吐かせようとした。
北の国民には珍しい、漆黒の長い髪。
そして北の国民らしい、白い肌。
その肌は傷だらけだった。血が流れて、河川に溶け込んでいる。
見目は15歳ほどか。
薄い服を緩ませたところで、彼女の背中にあるものに気づいた。
まさか。
そう思ったとき、彼女は、酷くむせながら、朧(おぼろ)げに眼を開いた。