語り屋の 語りたる 語り物
夕闇の中、風が巻き起こり、
周囲の景色を大きく揺さぶった。
女は身じろいだ。
何とか上半身を起こそうとして、うまくいかず、横ばいになった。
それでも頭を起こして、喉に手をあてて絞り出すように、何か言おうとしていた。
ーーー…口なしか…?
ただ今だけ声が出せないのか、舌を切られたのか、声帯をやられたのか、
奴隷時代の恐怖のあまりに声を失ったのか。
女は声が出ないようだった。
だが
ーー あ り が と う
と確かにその口は動いた。
イーザは、それを見届けたあと、静かに踵を返し、アムス達の元へと戻っていった。
幾ばくもなくして陽は完全に暮れ、ひっそりとした闇夜が辺りを包んだ。