語り屋の 語りたる 語り物
イーザの呟きが、風にのっていく。
彼女の長い黒髪がなびき、赤い瞳は大きく見開かれていた。
サーシャは舞台衣装とは打って変わって、純白の薄手のキトンを着ていた。
腰で絞られていて、華奢さと腰の曲線の艶めかしさを同時にあらわしている。
そして彼女の隣には、今までに見たことのないほどの大きな白い鳥がいた。
それこそ、本当に彼女の化身であるかのような、美しい鳥だった。
なぜここにいるのかと、お互いが言い出す前に、大きな風が唸るように2人の前を横切った。
砂が巻き起こり、観客席に備えられた松明の塵が飛び交う。
イーザは目を腕で覆い、それをやり過ごして再び目をこらした時には、
サーシャはその場にいなかった。
しかし上空から、とても透き通った声が降ってきた。
「マッダーラ様には、どうか御内密に…」
イーザは見上げると、愕然とした。
先ほどの白い鳥が舞っており、その背にサーシャが腰掛けていたのだ。
そして鳥は、弧を描くと、夕陽の沈む方へと消えていった。