語り屋の 語りたる 語り物
「俺たちの商品の誰かが殺ったとしたら、話はこじれるだろうな」
イーザは暗い未来を見据えるようにして眼を細めた。
「…何となくだけど、僕のなかで怪しいと思うやつはいるよ」
商人の一人、ナムが神妙な面立ちで言った。普段の柔和な雰囲気はなく、片眉を上げながら手を顎に添えた。
「あの、ライオンとのショーで出ていた、混血の奴隷」
あたりの空気の温度が下がった気がした。
「実は…俺もそう思ってた」
ルンも頷く。
イーザは、サーシャの顔を思い浮かべた。最後に見たのは鳥に連れられる前の、驚いた表情だった。
あの白い服と肌が、マッダーラの返り血で染められ、無表情で死体の前に立っているのを想像した。
ーー…あり得ないな
直感だが、ほぼ確信に近いものがあった。
「それは違う」
しかし、言葉に出して訂正したのはアムスだった。
アムス自身も驚いたようだった。