語り屋の 語りたる 語り物
言い値商売の事前に商人どおしでやりとりをしようとした時、
珍しく青ざめたルンが、イーザに耳打ちをした。
「奴隷が、逃げた」
イーザは眉をしかめてから、荷馬車をの中を覗いた。
ルンの言う通り、そこには奴隷の姿がなく、ものの抜け殻だった。
特に中は荒らされた痕跡はなく、
外の鍵が、解錠されたまま、ぷらりと揺れていた。
異常事態にも、イーザは取り乱すこともなく、
冷静に他の仲間にも現状を手早く説明をしたあと、荷馬車ごとその場を撤退した。