語り屋の 語りたる 語り物
市場の喧騒が遠のいたところで、全員は改めて荷馬車を丹念に調べた。
奴隷が脱走したのは初めてだった。
しかも、女や子供ばかりだったので、特注の重装な鍵をあけて出れるほどの屈強な奴隷はいなかった。
外部から鍵を開けてもらわない限り、このような脱走は不可能なはずだ。
「…しかし、どうせ逃げても、ここじゃな…」
ナムは、キセルを吹きながら呟く。
柔和な顔と無機質な声がかみ合わず、誰が言ったのかが、すぐにはわからなかった。
「ここで捕まるぐらいなら、まだ奴隷としてさばかれる方がマシだったかもしれないのに。」
ナムは、さらに続けて独り言を呟き、紫煙を揺らして、その空をぼんやりと見上げた。