語り屋の 語りたる 語り物
「…呪い避けをした。
もし術で縛られていたとしたら、これで祓(はら)えたはずだ。」
ターバンの隙間からもれた、アムスのほつれた銀色の前髪を軽く梳きながら、イーザは石をしまった。
まだ息の荒いアムスは、懐ろを凝視している。
イーザは、アムスの顔を両手で挟み、自分の顔を近づけた。
「アムス、魔石(ませき)に喰われるな。俺の眼を見ろ」
ゆっくりと言いながら、アムスがイーザのエメラルド色の瞳をとらえたのを確認し、しっかりと見合わせる。
「戻ってこい」
アムスの眼から一つの雫がこぼれた。
ナムは、キセルをしまい、静かに見ている。
「己を以(も)て。喰われるな。」
イーザは短い呪いを唱えて、再び、額に片手を当てた。
アムスは、糸が切れたかのように足から砕け、
イーザにもたれかかるようにして、意識を失った。