語り屋の 語りたる 語り物
イーザは、仕事仲間のアムスが時折、奴隷箱の方を伺うのを目ざとく見つけ、
「情をかけるなよ」と低く言った。
アムスは、クルッとイーザの方を振り向き、苦笑した。
「イーザ」
アムスは白色のターバンを解き、
パンパンと手で引っ張って皺(しわ)を伸ばした。
銀色の柔らかな髪が、焚き木の揺らめきに沿って僅かに泳ぐ。
「もしかしたら、俺たちが、ああなっていたのかもしれない…って思うとな。
この前まで、あの人達も、俺たちと同じような生活をしてたんだ。
それなのに、これからは一生消えない烙印と共に犬扱いだ。
…ってまぁ、長(おさ)に話すことじゃないな」
もう一度苦笑してから、アムスは赤々と燃える焚き火に目を移した。