溺愛されました
コクハク
「しゃあないなあ、次で終わりやで」
さすがに咲希も本気になる。
こんな憎たらしい奴にあっさり負けるわけにはいかない。
パン!パン!
右へ左へ、
前へ後ろへ。
ボールが飛ぶ。
さすがになかなか勝負がつかない。
「やるやんけ!!」
息を切らせつつ、樹荏が打ったボールが咲希と真逆のサイドに飛んだ。
「あっ…」
間に合わなかった。ギリギリで咲希のラケットを掠め、ボールが外に転がり、バランスを崩して倒れた。
「…はあ、久し振りにええ勝負さしてもろたわ」
樹荏が汗を拭きながら咲希に近付き手を差し出す。
「……なんで手加減しないのよ、人でなし」
「はあ!?何やとこいつ腹立つなあ!!俺かてブランクあったから結構必死やってんぞ!?」
ブランクがあってあの腕なら大したものだ。
「そんなの知りません!!勝手に勝負吹っ掛けてきて」
咲希は、ふいっと顔を背けると、擦りむいて痛む足を引き摺りながら、サッカー部との境目のフェンスに向かう。
サッカー部の部員たちも気になってチラチラと見守っていた。
鳴瀬の前まで行くと、
「…先輩、…ずっと…好きでした」
「ええ!?そっち!?」
周りの生徒たちも驚く。
慌てる樹荏。