溺愛されました
「明日会うたら、よろしゅう言うといて」
手をひらひらさせ、連れらしいホストみたいな男とオープンカーに乗って、去っていった。
――そしてその翌日。
待ち構えたように樹荏が咲希に駆け寄ってきた。
目の前で手をパン、と合わせて拝むと、
「お願いあんねんけど!!」
「嫌です」
「まだ何も言うてへんやんけ」
「どうせろくなこと言わないんだから、嫌です」
「次の日曜、1日、いや1時間でええから、付き合うてくれへんか!?」
「嫌です!先輩とデートです」
まだそんな約束はしていなかったが、膨れてそっぽを向く。
「な!?そんなもん放っとけよ!!」
「練習試合も近いですし」
「そんなこと言わんと、一生のお願い!!」
「昨日」
「はっ!?」
「昨日、大阪の彼女と仰る方が来られました」
ポカンとする樹荏。
「何のことやら…」
「とにかく!!何かあるならその彼女にお願いしたらいいんじゃないですか!?私はもう知りませんから!!」
「いやいや!!ちょお待ってえな!!ホンマに覚えがないねんけど」
「髪の長い、キレイなお姉さまでしたけど」
樹荏が何かを思い出す。
「あっ!!アイツ!!途中で消えよったからおかしいと思ったら!!」
「やっぱり覚えがあるんですね??」
「違う違う違う!!!その子は、昔世話になった人の妹さんで、昨日はその亡くなったお姉さんの墓参りに」
思いの外、真面目な答えだったが。