溺愛されました
「ええとこのお嬢さんやから、自転車では危ないっちゅうことか」
「晴れてる日はトレーニングも兼ねてなるべく自転車にしてるんです」
すっかり日が暮れ、辛うじてガードレールが見えるくらいになった。ライトを点けないと見えにくい。
と、後ろから黒塗りのワンボックスカーが無灯で静かに登って来た。
「道を尋ねたいんですが」
先頭を走っていた咲希に近付くと、助手席から若い男が顔を出す。影しか見えないが、声からそう見えた。
突然のことに、振り向く咲希。
「えっ…」
油断した。
止まって降り掛けたとき、後部座席のスライドドアを開け手が伸びて、咲希が車に吸い込まれた。
「きゃあっ!?」
ガシャン!!
スタンドを立てていなかった自転車が倒れた。