無糖バニラ
「うーん、傘で、顔までは見えなかったんだってさぁ。制服はうちのだったらしいけど」


残念そうに肩を落とすアイリに、ホッと胸をなで下ろす。

よかった……。

翼の傘の差し方のおかげで、たまたまそうなったんだ。


「でもさぁ、それじゃ芦沢くんの方だって分かんなくない?顔見えなかったんでしょ?」

「ほら、芦沢くんっていつも紺色の傘じゃん?見た子がそれ覚えてたんだって」

「うっわ、そんなとこまで見てんの?怖ぁー」

「仁奈、それ他の子の前で言わない方がいいよー?もう、朝から犯人捜しで大騒ぎ」

「いや、犯人て。なに?アイリも芦沢くんのファン?」

「イケメン嫌いな子とかいなくない?」

「まあね」


仁奈たちの会話を、あたしはどこか遠くで聞いているかのような錯覚に陥っていた。


相合傘をしていただけでそんな騒ぎになるくらいなら、キスしたことがバレた日なんて……。

考えたくもない。
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