無糖バニラ
その夜、あたしは部屋の窓を開けた。
「翼!ねえ、翼」
隣の家の、閉まった窓に向かって呼びかけると、カチャンと軽く鍵が開く音がして、窓がゆっくり開いた。
「何だよ、声でけーよ。何時だと思ってんだ」
「え?えーと、今は……9時半だよ」
「そういうことじゃねーよ」
呆れた顔を、閉まり始めた窓が隠そうとする。
「あ……、あたしね、小嶋くんと付き合うことにした!」
焦って叫び、今度はあたしが窓を閉める番。
「は!?なんだそれ!」
翼こそ、何時だと思ってるの。そんな大きな声を出して。
おかげで、窓越しでもよく聞こえる。