無糖バニラ
そっと体を離して、また近づく。

キスの寸前で、翼が「あ」と漏らした。


「え?」


すぐにあたしから離れて、自分の机に移動する。

キスをされると思ったのは、あたしだけ?

取り残されて、ポカーンとする。


だって、あの甘い空気だったら、普通期待するし……!

勘違いだったのかな。恥ずかしい……。


そんなあたしの気持ちも知らず、翼は自分のかばんをゴソゴソと探って、何かを取り出した。


「忘れるとこだった。ほら、お前が好きなやつ」


差し出されたのは、透明なラッピング袋に入ったクッキー。

……バニラ?


「うん、好き……」


でも、なぜこのタイミングで。
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