無糖バニラ
学校の敷地内に入っても、翼はあたしの手を握ったまま。
一応夏休み中とは言え、それなりに登校してきている生徒はいる。
「芦沢くんの彼女って、あの子?」
「えー、ショック!もっと可愛かったら諦めつくのに!」
最近は減ってきた方だけれど、遠くからのこんな陰口もまだまだ健在なわけで。
いいけどね、別に。
慣れたといえば、慣れたし。
付き合い始めの頃は、本当にひどかった。
だいぶ言われた。
主に、「イケメンの隣にいるにはバランス悪くない?」的な、あれやこれを。
武力行使に出る女の子がいないだけ、まだいいと思う。
あたしは日に日に気にしなくなっているのに、翼だけは違うようで……。
「芦沢くんだったらさ、もっと可愛い子いっぱい……、……きゃっ!」
遠くの女子が短く悲鳴を上げたことで、翼が彼女たちを不機嫌そうに睨んでいることを知る。