無糖バニラ
ここまで来てしまったら、引き返せない。

暴言にもめげるわけにはいかない。

あたしは傘をたたんで、翼の隣に立った。


「おい」

「あたしと帰るのが嫌なら、傘は翼が使って。……ん」


顔は見ずに、傘だけを突き返す。

翼が傘を受け取って、ひとりでさっさと帰ってしまえば、それはそれでショックだけど。

でもきっと、今の翼と一緒に帰るなんて、本当は無理だって分かっていたから。


「……」

「……」


腕が疲れてきた。

いつまでたっても傘を取ろうとしない翼が気になって、目だけで隣を見る。


「――っ」


翼の顔が、赤くなっているように見えた。

見間違い……?
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