無糖バニラ
翼がすぐに目を伏せたから、表情も顔色もよく見えなかった。


「!」


パッと傘を取られ、次に目に映ったのは翼の後ろ姿。

大きな傘が、紺色に開く。


帰るんだ……。

あたしは、せめて雨が弱くまではここにいようかな。

この状態で本屋さんの中に入ったら……迷惑かな。


そんなことを考えて、店内を見ると、


「おい、こっちこい」


あたしに向かって言われた気がして、翼に向き直った。

傘をさすその姿は、まっすぐにあたしを見ている。


「……え?」

「早くしろ」

「……あたしに言ってんの?」
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