プリズム!
(お前…。ホントに…夏樹、だったんだな…)


力は改めて、感慨深げに夏樹を見つめた。


あの日…。

目の前に現れた本物の冬樹を実際にこの目で見ていなかったら、きっとずっと疑いもしなかったし、とてもじゃないが信じられなかっただろうと思う。

あの転落事故に遭った夏樹が本物の冬樹で、入れ替わっていた夏樹がずっと八年間も冬樹として生きて来ただなんて、誰が信じるというのだろうか。

(ホント、有り得ないだろ…)

確かに自分は、男でありながらも綺麗でどこか儚い『冬樹』に心惹かれていた。

普通の男に対して感じ得ない想いを抱いていた、と思う。

でも、それは『冬樹』の面影に、昔の夏樹を重ねているからなのだと思っていた。

夏樹を事故で失った寂しさを、同じ顔をした『冬樹』で(いや)しているつもりでいたのだ。

なのに、それがまさかコイツが…昔から愛してやまなかった夏樹本人だったなんて、本末転倒も良いところだ。

たとえ冬樹の正体を見抜けていなくても、心の奥底にある夏樹への想いが『冬樹』の中の何かを感じ取っていたのだ…と言えば聞こえはいいが、結局は気付けなかった自分があまりに口惜しく、何より情けなく感じた。

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