プリズム!
黙って瞳を伏せていた夏樹が、不意にこちらを見上げてくる。

その瞳は、以前よりは随分と穏やかな色をしていた。

可憐なワンピース姿。そして、女の子にしては、まだかなり短めではあるけれど、少しだけ伸びた髪。

確かに雰囲気は変わったけれど、椅子に座っていてもピンと伸びた背筋。そして、その凛とした表情は、自分の知っている『冬樹』そのものだった。


「その…。色々と悪かったな。親父のことは謝って済むようなことではないけど…お前には本当に色々迷惑掛けた…」

ベンチに座っている夏樹を前に小さく頭を下げる。

すると、夏樹は一瞬驚いたような表情を見せたが、小さく息を吐くと言った。

「…もう、良いよ。終わったことだし…。それに、こんなとこで止めてよね。周りから不審に思われるでしょう?」

「あ…ああ、すまない…。でも、俺が言えた義理じゃないけど、お前が無事で本当に良かった」

「……うん…」

夏樹は僅かに視線を逸らす。

「あの時、俺には親父を止める(すべ)は何もなくて…。あれ程自分の無力さを痛感したことはなかった。本当に…悪かったと思ってる…」

「………」

夏樹は、あの日のことを思い出しているのか視線を落とした。

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