プリズム!
建物と建物の間を吹き抜けていく冷たい風に。

落ち葉はカラカラと回り、木々はザワザワと擦れた音を立てた。

空は晴れているのだが、午後になると陽が(かげ)ってしまうこの場所は随分と空気がひんやりしている。


その広く開けた場所に夏樹は一人俯き、呆然と佇んでいた。


なびく髪。

揺れるスカート。

その細い肩は、僅かに上下している。


夏樹は呼吸を整えるように、小さく息を吐くと顔を上げた。

先程まで絡んで来ていた男達は、バタバタと逃げるように走り去って行き、もう姿は見えなくなっていた。

周囲は、先程までの荒々しい立ち回りが嘘のように今は静まり返っている。


(結局、やっちゃった…な…)


既に絡まれてしまっている以上避けようもなかったし、理不尽な向こうの要求を大人しく聞き入れる程お人好しではない。

それに、実際自分が『冬樹』をこの場に呼べる訳でもないし、ある意味自分があいつらの言う『冬樹』なのだから、これは向こうの要望に応えたことと結果的には同じことなのだけれど。


(これじゃ、昔と変わらない。行動がワンパターンだって―の…)


夏樹は自分の身なりを整えると、少し汚れてしまったワンピースをはたいた。
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