プリズム!
兄の冬樹は、元気に頑張っている。

八年前…あんな事故に遭い、苦しみ怖い思いをしても。

力の父親である神岡の、その陰湿な犯罪の全容を把握していても(くじ)けることなく、全く違う環境下で己を鍛え、その悪に終止符を打つ為に好機を(うかが)っていたのだという。

そして、自らの手でそれを実現させた。

そうして今も尚、自分の夢を実現させるために日々努力を重ねているというのに…。


それなのに自分はどうだ…?

八年前から、ただ悲観的な日々しか過ごして来なかった自分。

事件が解決した今も未だに前へ進めないでいる。

それだけでも情けないのに…。


こんな…。

ただ…泣くことしか出来ないなんて…。


その時。


不意に膝の上に乗せているバッグから小さな振動を感じて、夏樹は我に返った。

「……っ…」

慌てて零れる涙を手の甲で軽く拭うと、バッグの中から携帯電話を取り出した。

手の中の携帯は、小さな振動と共に着信を知らせるランプが光っている。

(…まさや…)

画面には『雅耶携帯』と表示されていた。

良く見ると着信履歴の数が半端ない。

(何度も電話くれてたんだ…。気付かなかった…)

それにメールも何通か届いているようだった。

< 136 / 246 >

この作品をシェア

pagetop