プリズム!
「あ…雅耶、上がってく…?」

ずっと玄関口で扉を開けたまま話しているこの現状に気付いた夏樹が、こちらを伺うように見上げて来る。

そんな夏樹の表情に雅耶は一瞬ドキッとして、そしてどうしようか迷った。


実は雅耶は、今までこの夏樹のアパートへ入ったことがない。

野崎の実家で、二人きりで勉強したりしたことはあるのだが、その頃はまだ夏樹が『冬樹』として自分にも正体を隠していた時だった。

自分は、夏樹の正体に気付いていながらも、友人の『冬樹』として接することに徹していたし、特別意識をしないようにしていた。


だが、今はその時とは少し状況が違う。


彼女は夏樹に戻り、そして自分達は一応相思相愛という仲になれた筈だった。

夏樹が自分の秘密を全て話してくれた、あの日。

雅耶がずっと好きだったことを告げると。


『オレ…雅耶のことが好きだよ』


夏樹も自分を好きだと言ってくれて…。

一度だけ、お互いに誓い合うようにキスを交わしたのだ。

< 14 / 246 >

この作品をシェア

pagetop