プリズム!
そう、夏樹は頑張っている。

あんな事件があった後、落ち着く間もなく『冬樹』から夏樹へと戻ることになり、転校を余儀なくされても全てをその身に受け止め、努力してきたのだから。

ずっと願い続けてきた兄の冬樹と念願の再会が出来た後も、冬樹の方は今までずっと面倒を見てくれた後見人の元に残ることを決め、結局夏樹も今まで通り、一人きりの生活をしている。

本当なら、もっと一緒に過ごしたいという願いもあった筈だ。

だが、夏樹は笑って言った。

『ふゆちゃんの希望だもん。良いに決まっている』…と。

『それに、いつでも会いに行けるから…。それだけで十分なんだ。今までの寂しさに比べたら、ふゆちゃんが笑顔でいてくれる。本当にそれだけで十分』

だが…。


本当にそうだろうか?


当然、寂しくない訳がない。

確かに、全ての家族を失った悲しみからは浮上出来たかもしれない。

自分のせいで兄を失ってしまったという罪悪感、そして後悔の念からは解放されたのかも知れない。

だが、全てが元通りの生活になった訳ではない。

結局のところ、あいつの生活自体は変わらないままなのだから。

だが、夏樹は前を向いて笑っていた。


自分の気持ちのこととなると本当に(うと)い、夏樹。


だが…。

今、目の前で泣いている夏樹は…。

(この、泣きじゃくっている夏樹こそが、お前の本音の部分なのかも知れないな…)

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